1月の中旬、、、ある朝、回診の時間でもないのにカッシーが看護師の
相原さんを連れて病室にやって来た。2人とも怖い顔だった。。。
カッシー、、、「今日から夜寝る時以外はベッドに居るのを禁止します」
私、、、「・・・・・・」
カッシー「歩けないのは分かってるから車イスに居て下さい」
私、、、「・・・・・・」
カッシー、、、「座ってるだけで良いから常に重力に逆らってること」
って宿題を出された。
この頃、朝のレントゲン撮影なんかは車イスを看護師さんに押して
もらって移動していた。もちろんお腹の傷が痛くて自力ではこげない。
5分位かかったけどベッドから伝い歩きで車イスに座れるようにはな
っていた。
でも、すぐに貧血を起こすから、、、せいぜい座っているのは5分が
限度。無理だよぉ~、、、そんな宿題できっこない!!
続いて相原さんが今後の食事について提案した。
相原さん、、、「今日から高カロリーの栄養飲料をご飯につけます」
私、、、「何、それ?」
相原さん、、、「ジュースよ。冷やせば何とか飲めるわ」
ジュースって聞いて嬉しかった。冷やせば何とか飲めるって言い方が
気になったけど3食毎にジュースがついて来るって聞いて喉が鳴った。
相原さん、、、「毎食必ず飲み切ってねっ。後でサンプル持って来るから
好きな味を選んで良いのよ」
相原さんは年の頃だと20代半ばって感じ、、、私の息子と同じ位だと
思ったけど、、、とにかく怖かった。小柄で点滴棒に手が届かないから
パックの交換はいつもジャンプしていた。テキパキした女性だった。
カッシー、、、「それと、今日から栄養と水分の点滴を止めます」
私、、、「先生、それじゃ俺、死んじゃうじゃん」
カッシー、、、「死にたくなかったら自分の口でとにかく食べて下さい」
私、、、「先生、無理だよ。努力しても飲み込めないんだから!!」
カッシー、、、「こんな特大の栄養の点滴を24時間したって、摂取できる
カロリーは1パックでおにぎり1個だよ。おにぎり1個分
なんて口から入れた方が早いでしょっ」
相原さん、、、「ここは病院ですからダメな時はすぐ助けてあげます。点滴
に甘えるのはもう終わりにします。もうあなたは病気じゃ
ないのよっ!!」
私、、、「・・・・・・」
毎日、高熱とお腹の中の痛みでほとんど眠れなかった。鎮痛剤には眠く
なる成分が入っていたので、点滴してもらうと2時間程眠れた。眠って
いる間だけは痛みと熱を忘れることができた。鎮痛剤の点滴は8時間程、
間をおく必要があったので消灯の時間に使うと夜の11時頃には痛みで
目が覚めてしまって夜が長かった。。。
だんだん時間の計算ができるようになって来て、、、夜はギリギリまで
我慢して夜中の3時頃とかに使ってもらう知恵が付いて来た。朝方だけ
ほんの少し熟睡していたと思う。
朝起きると伝い歩きで車イスへ行く。ここに車イスが置いてあるのは
そのためだったんだと分かった。何とか頑張って15分!!テレビを
見てても貧血でだんだん気が遠くなって来る。1日中こんなことして
られっこないよっ!!
車イスの上で気を失わない内にベッドまで伝い歩きで戻る。。。
カッシーの宿題なんて到底できる筈ないと思った。大体これから生きて
行こうとする気力自体がない訳だから、、、
ベッド脇の車イスに移るのに5分、車イスで15分程過ごしてまたベッド
に戻る。。。2回繰り返すと1時間はかかる。そんなこと数日やってる
内に病室の中なら伝い歩きができるようになった。
ある日、念願の病室の窓まで行ってみた。。。タオル地のガウンすら力が
無くて持てない。ペットボトルやジュースのプルトップすら開けられない。。。
鍵が開けられるかどうか難しいと思ったけれど、、、大きな窓まで行って
愕然とした。
「この窓、、、開かねぇ~じゃん!!」
そうかっ、病室の窓って開かない仕組みになってるんだ。開くのはレポート
用紙位の通気窓が2箇所、、、チクショー、上手くできてらぁ~。
俺みたいに悲観的な人もいるだろうから、そんなに簡単に飛び降りられない
ようになってるんだっ!!
↓
病室の窓から見える多摩ニュータウンの風景。団地の給水塔の根元
辺りが私の自宅です。

今の俺には何にも選択肢がないっ!!唯一選べるのはせいぜい重力
に逆らってること位かも、、、
元気な時はこの重力を最大限に利用して自由自在にゲレンデを滑ってた
のに、、、重力に逆らう力がなくなったとたんに身体の自由を奪う。
起きる、立つ、歩くって行為がこれ程しんどい物だとは想像がつかなかった。
車イスからやっとの思いでベッドに辿り着き、貧血でグルグルしてる
時に限ってカッシーが様子を見にやって来る。
「また寝てる~、、、コラッ、すぐ起きなさい!!」
怒られた。容赦なく怒られた。
↓
私の体内で暴れ回り、親からもらった大事な身体を食い散らかして
息絶えた
「漆黒の悪魔」 。ふてぶてしい奴。摘出後すぐ撮影された物です。

下のピンク色の部分は出血は少ないけど狭窄していて内視鏡が使え
なかった。この先が直腸に繋がる。上のドス黒い部分はほとんど壊死
状態。腫れ上がって巨大化を起こしている。小腸に繋がっていた。
直腸側に4cm程正常な部分が残してありますが、大腸のほぼ全部
を摘出しました。
穿孔して毒素が全身に回り腹膜炎、多臓器不全、敗血症等を併発して
いた。この病気の恐ろしさを具体的に知っていただければと思って
あえて載せました。ご気分を害された方にはお詫び申し上げます。
重力に逆らう。食べる。とにかく食べる。先生や看護師さん達の
方針はこの2つだけだったと後から聞かされました。
先生や看護師さん、妹夫婦や両親、、、周囲の人達はここまで来れば
先は見えて来たって思ってるのに、、、
私だけがまだメソメソ、ウジウジしていた。
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