運転免許試験場までの小さな旅を決行する日がやって来た。
サイボーグになってから初めて電車に乗る。それも朝の通勤
時間帯、、、電車やバスを何度も乗り換える不安は大きい。
ストマのパウチに排泄物があまり溜まらないように病室での
朝食は控え目にした。前夜に新しいパウチに交換してあるし
多少ラッシュで人混みに揉まれても大丈夫だろう。。。
ナースステーションに寄って挨拶をしてから玄関で大好きな
入れ立てのコーヒーをゆっくり飲んで出発!!
妹のアドバイスもあって杖を持って行くことにした。杖1本
持ってるだけで周囲の人がある程度は私が身体に障害を持っ
てることを理解してくれるから。。。
最初はバスで市役所へ。永山の駅から市役所までのバスは混ん
でいた。当然座れない。交差点を曲がる度に身体を捻るから
ストマのフランジが剝げそうな気がして不安だった。
お腹とパウチをつなぐフランジは上下前後の動きにはついて
来るけど、左右水平の動きには弱い!!つり革につかまって
耐えると汗が噴き出た。
まだ体力ないなぁ~!!
市役所で書類を揃えてから聖蹟桜ヶ丘まで再度バスに乗り込む。
この日初めて身体障害者手帳を使った。運賃が半額になる。
、、、手帳を提示する時やり切れない気持ちになるのは経験
がないからかも知れない。
その内に慣れるさぁ~。。。
京王線の各駅停車に乗って多摩霊園駅までは大混雑!!
あちこち押されてお腹の傷とお尻の傷が痛かった。
パウチの両端に出ているフック辺りに女性のショルダーバッグ
の角が引っ掛かっていて気になった。
何とか多摩霊園に降りてトイレを探した。ここは各駅しか停車
しない小さな駅。トイレは薄汚い和式だった。和式は絶対無理
って思ってたけど、ここからまたバスに乗らなきゃならない!
和式のトイレでストマの処理にチャレンジ。
う~ん、、、難しい!!
あれこれしている内にかなりの時間が経って試験場に着いたの
は講習時間ギリギリ。すっごい混雑!!
入院以来、こんな人混みに紛れたことがなかったから気分が悪
くなる。真冬なのに汗びっしょりだった。
何だかフランジの周辺が生温かかった。。。
↓府中運転免許試験場。冬枯れの木枯らしが吹く寒い日だった。

係員の指示で教室に滑り込みセーフ。。。
やったぁ~!!とりあえず辿り着けたことに感謝。
しばらくして胸元からコーヒーの良い香りがプ~ンと匂う!!
しまった!!ストマのパウチが外れたんだっ!!
きっと電車の中で女性のショルダーバッグに引っ掛けられた時だ!
排泄物は小腸から出て来た状態だから便の臭いはしない。
食べた物が消化液と交じった状態、、、つまり食べた物その物の匂
いになる。特に飲み物を飲んだ時は30分くらいで出て来る。
こりゃ~、朝飲んだコーヒーだっ。
でも講習中はどうにもならん。。。モジモジしながら時間が凄く
長く感じた。消化液の酸で皮膚が焼けてチリチリし始めた。
講習後の手続きを終えてトイレへ行ったけど、どのクローゼットも
行列で無理。それにかなり臭うから試験場の外へ、、、
、、、バス停で少しだけジャージを下げて見た。
案の定、フランジが剝げて漏れてる。。。
え~い、こうなりゃここで何とかするしかないっ!!
覚悟を決めて上半身着ている物を脱ぎ、ジャージも下げた。
前夜に張り替えたばかりでまさか剥がれるとは思わなかったから
絆創膏と鋏しか持って来なかったことを後悔した。
周囲の好奇な目が突き刺さったけど無視するしかない。
やることやらなきゃバスにも電車にも乗れん。。。
何とか修復。まだ3月だから外で裸は寒かった!!
来た時と同じ道程をトボトボと帰る自分が惨めだった。
汚れて臭い自分がやるせなかった。
この日はいろいろ学習した。真っ暗闇でパウチの交換をする練習
はしたけど、実際に外に出て見ないと発生しない出来事をいろいろ
経験した。
病院に居たって3日間持つこともあれば、3時間で剥がれるだって
ある。
どんなに近場でも外出時は交換キットを持ってないとダメだ。。。
帰りの電車で初老のご婦人が杖を持ってる私に席を譲ってくれた。
臭うから両隣りの人に迷惑かかって嫌だったけど、、、ヘトヘト
だったから座らせてもらった。
無性に有難くて涙が出た。
病棟に戻ったらナースステーションで夜勤の看護師さん達が
待ち構えていた。
私の話をニヤニヤして聞いてるだけだったけど、看護師さん達
の目は、、、
「そうよ、そうやっていろいろ経験するのが一番の近道よ」
って言ってるようだった。
軽い朝食以外何も口にできなくて腹ペコ。すぐさまシャワーして
パウチを交換。取っておいてもらった夕食をガツガツ食べた。
100%打ちのめされた小さな旅だったけど、、、
C4病棟に辿り着いて、、、
何だか実家に戻って寛いでるような気分になれたサイボーグだった。
PR